痩せたくて「油物を避ける」は逆効果…肝臓外科医が勧める、脂肪燃焼のスイッチを入れる「良い油」の正体

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Source : President Online Written by 尾形 哲

ダイエットなどの際に「油物を一切食べない」のは正しいのか。肝臓外科医の尾形哲さんは「油を避けたほうが痩せるというのは誤りだ。むしろ良質な脂質をプラスすることが脂肪を燃焼しやすい体につながる」という――。


「油を避ければ痩せる」は間違っている

生活習慣の変化や食生活の乱れにより、「脂肪肝」になる人が増えてきています。脂肪肝とは、肝臓に中性脂肪がたまりすぎた状態のこと。健康な肝臓には少しの脂肪しかありませんが、全体の5%以上が脂肪になると「脂肪肝」と診断されます。初期は自覚症状がほとんどなく気づきにくいのですが、そのまま放置すると肝炎や肝硬変につながることも。しかも最近は、アルコールを飲まない人に脂肪肝が増えています。

脂肪肝を指摘されたり、コレステロール値が高くなっていたりすると、「とにかく脂肪の摂取を避けなければ……」と考える人が増えますが、脂質オフにすることは、健康のためによい選択ではありません。油を避けたほうが痩せるイメージは、むしろ逆。良質な脂質をプラスすることが、脂肪を燃焼しやすい体につながるのです。

では、脂質と脂肪燃焼の関係についてみていきましょう。

40代以降の女性は脂質を積極的に摂取したほうがいい

良質な脂質は、体をつくり、守り、動かすうえで欠かせない働きをしています。

特に大きな役割は、脂肪燃焼を促すホルモンの材料になることです。

エストロゲンなどの女性ホルモンは、コレステロール(脂質)を材料に合成されます。女性は中高年以降、エストロゲンの低下によって脂質の代謝がスムーズに進みにくくなり、脂質の摂取不足と代謝の低下が同時に進む“ダブルの脂質不足”が起きやすくなっています。だから、特に40代以降の女性は脂質を積極的に摂るとよいといえます。

そのほか、脂質の摂取が極端に少なくなると、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収低下やエネルギー不足を招いてホルモン環境や代謝に影響しうるため、不足も過剰も避けるバランスが重要です。

「細胞の健康」を維持し代謝を高める

また、脂質は「細胞膜の材料」としての役割も大きなものです。

私たちの体は約37兆個もの細胞から成り立っており、その一つひとつの表面を覆っているのが細胞膜です。細胞膜は脂質を主成分としており、やわらかくしなやかな状態であることが、細胞の健康を維持するためのカギとなります。

膜が硬くなると、栄養や酸素を取り込みにくくなり、老廃物の排出もうまくいきません。膜の状態が良好なら細胞機能が保たれ、結果として代謝を支えやすくなると考えられています。

オイルを適度に摂るなど食事に脂質を含めると、血糖値の急上昇を防ぐことにも役立ちます。油をプラスすると、胃から腸への食べ物の移動がゆっくりになって、糖の吸収スピードを抑制。これにより血糖値の上昇も抑えやすいのです。そのため、私が後程おすすめするスープにもオリーブオイルやごま油などの良質なオイルを使用することを推奨しています。

良質な脂質は“インスリンの働き”も助けます。

インスリンは血糖値を下げるホルモンですが、細胞がインスリンからの指示を受け入れにくくなる「インスリン抵抗性」が起きると、血糖値が高くなりやすくなります。

魚由来のオメガ3脂肪酸(EPA・DHA)や、飽和脂肪酸をオレイン酸(オリーブオイル等の主要成分)に置き換える食事パターンには、インスリン感受性や血中脂質の改善が見られたという報告があります。

加工食品やパンに含まれる脂質は避けたい

とはいえ脂質のすべてがよいわけではなく、脂肪燃焼をサポートして積極的に摂取したいのは“オメガ3脂肪酸”などの「不飽和脂肪酸」です。

逆に、加工食品や市販のパンなどに多いトランス脂肪酸や過剰な飽和脂肪酸は、体脂肪の蓄積を促進しやすいため注意が必要です。

オメガ3脂肪酸は細胞の代謝を促進して、脂肪を燃やしやすい体に導いてくれます。

しかし、体内で作ることができないため、必ず食事から摂取しなければなりません。

そのオメガ3脂肪酸にはいくつか種類がありますが、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が代表です。さんま、いわし、さば、あじやサーモンなどの魚などに豊富に含まれます。

オリーブオイルかごま油を日々の食事に使用する

なお、えごま油、亜麻仁油に含まれるα-リノレン酸もオメガ3脂肪酸に含まれますが、加熱に弱く、日常的には使いにくい面もあります。もし手元にあるようなら、食べる直前にオイルをひと垂らししてもいいでしょう。ただ、魚であればオメガ3脂肪酸を摂取できるので、無理して加える必要はありません。

むしろ、継続しやすい良質なオイルとしては、オメガ3脂肪酸が主成分ではないものの、「オリーブオイル」か「ごま油」のどちらかを加えることを推奨しています。

飽和脂肪酸の一部をオリーブオイル(主成分オレイン酸)に置き換えると、LDLコレステロール低下などの改善が報告されています。

さらにオレイン酸には腸の働きを助ける効果も期待できます。便通が整うと老廃物が溜まりにくくなり、代謝がスムーズに進むため脂肪燃焼の効率も高まります。

ごま油は加熱に強く、セサミンなどの抗酸化成分が細胞や血管をしなやかに保って、代謝をスムーズにします。

オリーブオイルを仕上げに垂らすサーモンスープ

では、効率よく脂肪燃焼を進める脂質を摂れるスープを紹介しましょう。まず、脂肪燃焼力を底上げするアミノ酸とビタミンB群を豊富に含む鶏むね肉からとるスープストックを用意しておきます。

フライパンにスープストックとちぎったキャベツを入れて煮立て、冷凍さやいんげんと乾燥カットわかめ、刺身用のカット済みサーモンを加えてふたをし、沸騰したら5〜6分煮ます。塩・こしょうで味をととのえ、仕上げにレモン汁とオリーブオイル、輪切りのレモンを加えれば完成です。

サーモンにはEPAとDHAが豊富に含まれています。青魚に多いと思われている脂肪酸ですが、サーモンも同レベルなのです。さらにサーモンにはアスタキサンチンなどの抗酸化成分も含まれ、酸化ストレス対策に寄与する可能性が示されています。

オリーブオイルなどの良質なオイルは、コクや香りも強く、満足度が高まります。そして、脂質は消化に時間がかかるため、腹持ちがよく、少量でもしっかりとした満腹感が得やすくなります。これもスープにオイルを推奨する理由のひとつです。

オリーブオイルは比較的加熱に強い特徴がありますが、最後に加えることでより酸化を防ぐことができ、オリーブの風味をしっかり感じられます。

「油=太るもの」と決めつけるのではなく、どんな油を、どのように摂るかを意識することで、健康的に脂肪を燃焼させる第一歩になります。ちなみに、水分を除けば脳の6割以上は脂質です。脂質を上手に摂っていくことで体から脂肪を減らせるだけでなく、脳を健やかに保つことにもつながりますよ。